アドテクの進化と副作用

自分がアドテク業界に入ったのは、例のオンラインメディア事業が失敗し、データ分析屋として、その頃徐々に注目を浴びてきていたアドテク分野の会社で働き始めたのがきっかけです。

そこではじめてDSPやらSSPやらDMPやらなんやらのことを知り、当時日本製のものはまだプロダクトとして存在していなかったDMPの集計・分析部分を作ることになりました。

DMPの話はまた別の機会にして、アドテクノロジー(アドテク)についてちょっと考えてみたいと思います。(ディスプレイ広告がメインです)

アドテクノロジーというと、どんなイメージを抱くのか分かりませんが、私の認識では、

  • 広告主目線では、「できるだけ安くインプレッション(以下,imp)を買って、できるだけ多くコンバージョンさせる」
  • メディア目線では、「できるだけ安くimpを増やして、できるだけ高く売る」

を、テクノロジーで最大化していくというものだと思います。

現在、主にテクノロジーが担っている部分は

  1. impの買付価格の決定
  2. impの売先の決定

これをリアルタイムで行うのが RealTimeBidding(以下、RTB) で、1.がDSP、2.がSSPになります。

DSPでは買付価格を決定するために、SSPから送られてくるメディアの種類や枠の位置、DMPから取得する、行動履歴、属性情報、趣味嗜好等々、さまざまなデータを利用しています。

# RTBの仕組みやどんなデータがRTBを通してやり取りされているかのは、英語になってしまいますが、こちらのOpen RTBのgithubリポジトリにpdfで掲載されています。

そのデータから、どんなimpにいくらで入札するかというのは広告配信システムのアルゴリズムと運用担当者の腕のみせどころだと思います。

このように広告を掲載して結果をレポートするだけではなく、様々なデータを利用して、パラメータを変えながら広告を運用をしていくものなので、運用型広告と呼ばれています。

# DSPやSSP等の仕組みに限らず、上記のような運用が発生するものを運用型広告と呼びます

以前は、テレビや雑誌、新聞と同じように、ターゲット層にリーチするためにどの媒体に出稿するかということが大事でしたが、 運用型広告の世界では、様々なデータを活用して、impの価値を算出し、どの媒体のどの位置に広告を出すかということも含めて、テクノロジーが買付けてくれます。(設定は人間がやる範囲も多いです)

例えば、子育て中の親をターゲットとした広告案件があったとして、

  1. 子育て系メディアだが広告が見えてるかわからないし、どんな人が見ているかもわからないimp
  2. メディアの内容はわからないが、位置はヘッダーで、哺乳瓶を買ったことのある人のimp

を比較したときに、以前は 1. のほうが価値がありましたが、運用型広告では 2. のほうが高く買付けが行われるでしょう。

当然、子育て系メディアに来ている人が全員子育て中の親とは限らないですから、もし、上記のように「哺乳瓶を買った人」というデータを持っていれば、媒体を問わず、その人に広告を出すほうが効率がいいですし、リーチという意味でも、「子育て系メディアに訪れたことがある人」をターゲットにどこの媒体でも広告を出すほうが効率的です。

もちろん、上記の例は極端ですが、メディアにとっても、自身のデータを活用して、運用型広告の枠組みの中で広告メニューを作ることで売上の増加にも繋がるため、急速にこの流れは世の中に広がっていった(いまも広がっている)と思います。

究極的には、アドテクによって、人がどこを訪れても、その人に合った広告が、そのメディアに合わせて表示されるようになり、広告予算は広告が表示されたメディアに分配されていくので、どのメディアもマネタイズを行いやすくなり、どの広告主もターゲットにリーチしやすくなるため、今後もどんどん進化は続けていくと思います。

しかし、このアドテクによってもたらされる変化は、副作用も産んでいると思います。

さきほども書いたように、アドテクを利用することによって、メディアの内容に関係なく、その人に合わせた広告が、そのメディアに合わせて表示されるようになり、広告予算が分配されます。

そうすると、

  • お金をかけて良質な情報を掲載すること

よりも

  • お金をかけずに記事を大量生産すること

のほうが儲かるということになります。

テクニカルには、DSPはできるだけ安くimpを買付けしたいのですから、広告主固有のターゲットデータ(リターゲティングのデータ等)があれば、安いメディアのimpのほうが良いはずです。

さらに、広告主のテーマに沿った記事、検索キーワードに合った記事(女性系、医療系、等々)を量産することで、良い位置の広告枠(インフィード等)と、データ(趣味嗜好等々)を同時に獲得することができます。

このようにアドテクの進化によって、広告という意味での最適化は行われていますが、メディアという意味では、一部でこの仕組みに沿う形で問題のある記事を量産して収益化するという問題も発生しています。

このアドテクの構造が、この問題を生み出した直接的な原因だとは思っていませんが、キュレーションメディアの隆盛とアドテクは切っても切れない関係だと思っています。

この構造を変えることは、難しいと思いますし、この最適化は今後もどんどん行われていくと思います。

しかし、本質的には、必要な人に必要な情報を届けるようにテクノロジーで最適化を行っていくことは、良いことのはずです。

テクノロジーによって、既存の構造を変え、新たなビジネスを生み出していくことは歓迎されるべきことであり、世の中にとって必要なことですが、 自分たちがテクノロジーによって最適化をしていく一方で、様々な問題も生み出していることは常に意識して、解決に取り組まなければいけないと思っています。

太田祐一

筑波大学卒業、マネックス証券入社、その後独立し、ニュースアグリゲーション事業を開始するも失敗、株式会社アドクラウドにて、日本初のDMPの開発に携わり、株式会社オウルデータの代表取締役社長に就任、サイバーエージェントへ売却。SATORI株式会社 Co-Founder。株式会社DataSign Founder 代表取締役社長。